金沢靖 写真展

こちらのイベントは終了しました。
2021年11月〜2022年1月

写真家 金沢靖さんの写真展を開催します。
作家本人による手焼きオリジナルプリントの展示です。
銀塩モノクロ写真の魅力はデジタルでは再現できないナチュラルな階調とリッチな質感です。
写真集「トムとバンザイ」(1998 年 新潮社 ) 他、 未発表の犬を題材にした作品をパセリセージでセレクトしました。動物たちの姿に思わず頬がゆるみ、 疲れたときやひと息入れたいとき、眺めてるだけで人を笑顔にさせてくれます。癒しとしてもお部屋のインテリアに素敵な写真作品です。 作品は購入する事もできます。

金沢靖のインテリアに合う銀塩モノクロ写真 Parsleysage オリジナルクッション

トムとバンザイ

金沢 靖

 約40年の間、私自身が犬と関係を持つことはなかった。というより無意識に犬のことは考えないようにしてきた、と言ったほうが正確だろうか。私が11歳の時、理由あってかわいがっていた愛犬「シロ」と生き別れなくてはならなくなった。そして「シロ」には悲惨な最期が待っていた。それがきっと、その後の私に犬との距離を置かせる主因となったのだろう。

 LA生まれのブロ・ダンサー、トムと知り合ったのは2年前のことだ。以来彼の写真を撮り続けてきたが、ある日トムの楽屋にフレンチ・ブルのバンザイが遊びに来ていた。トムの愛犬である。その時、ジャレあう彼らの仲むつまじさを目の当たりにした私の中に、瞬間的に遠い日の実感が蘇ったのだ。

 犬と人間の、他の動物に例を見ない関係は、いったい幾世紀をかけて築き上げられたものなのだろうか。ある時は友達として、また家族として、そして最愛の存在として、犬と人間は喜びや悲しみを

ともにし、互いに勇気や元気を与え合ってきたのだ。解り合えない人間同士の関係が多い中で、言葉なくして心を通わせることができる犬と人間。その関係は言葉では言い尽くせない魅力を持っている。犬だけを撮った写真集はたくさんある。しかし犬の魅力を表現する時、人間の存在は無視すべきではない、犬にとっても人間は大切なパートナーなのである。だからこそ「トムとバンザイ」では犬と人間の特別な関係を表現したかった。そして撮影現場では私自身、写真家としてその場にいることを忘れ、技術的な手法にこだわることなくただ一人の犬好きな人間としてカメラを手にしていたのだった。

写真集「トムとバンザイ」(1998 年 新潮社 ) より]